映像から音を削る―武満徹映画エッセイ集


武満徹の映画についての文章を読むといつも背筋が伸びる思いがする。甘えや憧れあるいは慣れ合いではなく、映画との距離を取りながら真剣に向かい合っている様が読み取ることができるからだ。本書はこれまでの全集などには収録されていない文章も取り上げられている。
現在の日本映画界の状況からは理解出来ないだろう部分は、いくら斜陽産業と言われようと映画会社の力は絶大でそこから外れた独立プロの作品を製作・配給することがどれほど困難な状況であったか、それを想像することももはやできないのかもしれない。
「映画」という観念の具現化を推し進めると、どうしても最終的に残るのはドメスティックな部分になりがちだ。倒錯した考え方だが国際的な市場でウケる映画は大抵ドメスティックなものなのだ。フジヤマ、ゲイシャ、サムライといったオリエンタリズムのアイコンだ。
武満氏の思索を読んでいると、まず彼の映画音楽は劇伴ではない。映像と立ち向かい映像が語りかけてくる音を「音楽」へと昇華する。だから「音楽」という純粋なイメージを突き詰めるときに、物欲しげな映像は自然と淘汰されていくのではないだろうか。
これは「映画音楽」にある種の固定観念や期待を持った観客や製作者からは疎まれることになるだろう。だからといって彼の音楽自体が観念の世界から降りてこないことはない。映画におけるポピュラー音楽の使い方を見ると真摯な顔の向こうにやさしい表情がみえてくる。
武満氏は映画を愛する余りに映画に全世界性を求めすぎたところがあったのではと思う。その思考のスケール感はきらいではない。むしろこれから私たちが真摯に取り組む部分ではないだろうか。

この歌の由来はこの本を参照。

Kubrick Season

ツイッターで回ってきました。2008年にイギリスのテレビ局、チャンネル4で放映されたスタンリー・キューブリック監督特集のCMだそうです。素晴らしいオマージュですね。

このCMに関する新聞記事によると、出てくる小道具や機材のほとんどが、実際に『シャイニング』の撮影に使われたものだそうです。
http://www.guardian.co.uk/media/2008/jul/03/channel4.kubrick

ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア

アメリカの現代アートというかシュルレアリズムと言うかカテゴライズが難しい芸術家、ジョゼフ・コーネルはその生涯をニューヨーク郊外の小さな街で過ごした。

若くして未亡人となった口やかましい母親と生まれつき身体が不自由であった弟とずっと同じ屋根の下で暮らしたことが、彼の芸術家人生にくっきりと影を落としている。

家族の生活の面倒をみることからのプレッシャーから逃れるために、彼は幼少時代の夢の世界を生涯求め続けた。数々の「箱」が脆く儚くイノセントと永遠さを感じさせるのはそのせいではないか。隠遁した子供は、粗末な食事と甘ったるい駄菓子を主食にして、街に出ると古本屋で雑誌を漁り、地下室でコラージュを作り上げる。題材は幸福だった家族そろって出掛けたコニーアイランド遊園地の風景や映画、バレエの思い出からインスパイアされた小物たち。失われた時代を封じ込める妄執すら感じる。

それは映画そのものの定義に繋がるなと思って戦慄した。コーネルの作り出したコラージュは、絵画や彫刻と違い、現実にある素材を組み合わせて別の意味を見出す手法。過去をフィルムという永遠に閉じ込めて暗い部屋で光と影によって生き返かえっていく…。

当初から彼は映画のことを本物の芸術となる可能性をもった強力な視覚メディアであると考えていた。コーネルの心をとらえたのは、「銀色の光に閉じ込められた人物の表情、眼差しから、理想の美の姿を喚起し、思いもよらない音楽の氾濫を呼び起こすような、サイレント映画がもっている深遠で暗示的な力」であった。

彼の蒐集癖はものすごいものがあって、一時期ファッション雑誌のアートディレクターのようなことをしていて、注文があると彼のコレクションの中から使えそうなイメージを探しだして雑誌用カットやスチルを貸し出したという。また公共図書館に通って、古い絵画やカットを写真複写して作品の素材に使った。映画スターをモチーフに使うのはアンディ・ウォーホールより遙かに早い。

無題(ローレン・バコールのペニーアーケード・ポートレイト),1946年

何年ものち、バコールはこの箱を見て「これとってもいいわね、手に入れておけばよかった」と叫んだ

映画に対しても同じように蒐集をして、気が向くと訪問してきた客相手にサイレント映画のコメディを上映したという。

実際、コーネルの広範なコレクションは、映画の草創期とでもいうべき時代の作品何千本にも及び、彼自身が数えたところ、その九割が一九〇〇年から一九二三年までのものであった。その頃アメリカで映画を蒐集していた人々はごく限られていたが、みなジョゼフ・コーネルの名前を知っていた。しかし必ずしも、彼が芸術家だと知っていたわけではない。

彼の映画への情熱はやがて製作に向かう。実験映画の古典として有名となった『ローズ・ホーバート』は、誰も知らないような通俗冒険譚を好きなようにコラージュを行ない元の映画の文脈を破壊してコーネルの映画とした。よく見ると彼の作品のモチーフである鸚鵡が唐突に登場したりする。

やがてコラージュ映画から、自ら映画を撮ろうと決めた彼は、当時の若手実験映画監督に声を掛けて撮影を頼む。これがスタン・ブラケージだった。ブラケージはコーネルの1950年代の実験映画は彼のコラージュ作品と同様に重要なものだと語っている。

本書の中で彼の少女愛の世界も明らかにされるが、彼の恋愛歴の中にスーザン・ソンタグや草間弥生が出てきて驚いた。

 

『ニンフの光』

撮影はニューヨーク公立図書館の裏手に当たるブライアント・パーク。主演は十二歳のアメリカンバレエ学校の生徒、ルディ・バークハート。

 

『天使』

『Grir Rednow』

廃線になる高架鉄道の撮影をスタン・ブラケージに依頼したが、コーネルの意に沿わなかったために、十二年後、ほとんど編集せずにただフィルムを裏返しにした作品として公開。ブラケージ版のタイトル『ワンダー・リング』も引っくり返した。

なぜiPhoneで映画ができるのか?

今年スティーブ・ジョブズが引退した。もう自分の仕事は終わったと感じたのだろう。彼はMacでパーソナルコンピュータの世界を切り開きIBMなどの大型汎用コンピュータを葬り去った。そのジョブズが今度はiPhoneiPadで自ら作り出した短かったパーソナルコンピュータの時代に終止符を打とうとしている。

この終わりのはじまりは、実はiPodの時から始まっている。iPodが発表された時、ほとんどの家電オーディオメーカーは冷笑した。極力機能を削っただけで何も新しい発明が無いガジェットに何ができるのかと。しかしご存知の通りiPodはウォークマンを駆逐して携帯音楽プレーヤーの代名詞になった。果たして何が起こったのか?

21世紀になって、消費者を煽るハイスペック・高機能による差別化の時代は終り、世界は次のフェーズに移った。それは新しいガジェットが、新しいユーザー体験(User Experimence =UX)をデザインしているかどうかということだ。初期のiPodのキャッチコピー、“Rip-Mix-Burn”はまさにこれまで無かった新しいユーザー体験だ。ここからAppleの快進撃ははじまった。

 

映画は19世紀の終わりに、“いまここで夢見る機械”として発明された。映画は古来からの絵画、彫刻、音楽、文学、舞踏、建築、演劇に続く「第8芸術」と称された。逆に言えばある意味これらすべての芸術要素が映画の中で統合され表現されているといっても良いだろう。

映画は活動写真と呼ばれた最初から完成形であり、誕生から100年以上経った今でも、その仕組みはほとんど変わらない。撮影、編集、上映に至る間に様々なテクノロジーが介在している特殊なアートとも言える。キャメラのレンズ、フィルム現像による化学的な処理、1秒間に24コマの映像が映写機を通して暗闇の中で光と影となり現れ投影される。ここに映画の神秘的魔術的な魅力があった。

 

20世紀になって映画はテクノロジーとテクニックを使った巨大な産業となり、夢の工場である映画撮影スタジオで映画を作ることはプロの仕事になっていった。サイレントからトーキーへ、白黒からカラーへ、そして3Dへ…。ハリウッドを中心に映画はテクノロジーとともに進んできた。そして今デジタルの時代へ移ろうとしている。

その一方でテクノロジーは映画をプロの手から解放してきた歴史もある。小型軽量化したカメラと高感度フィルムは、世界中の街角をセットに変えた。同時に映画製作の経験の無い若者たちが次々と映画を撮る時代が来た。そしてデジタルビデオカメラが出てきて、限りなく映画製作は身近なものになった。

デジタル革命により、映画製作の機材(ガジェット)の分野だけでもプロフェッショナルとアマチュアの差が見えなくなっている。誰もがクリエーターになることができるいま、求められるのは映画製作ための新しいユーザー体験のデザインだろう。

 

iPhoneではそれができる。このガジェットの中に「映画を作るためのものはすべて揃っている」のだ。いやちがう、「誰でも映画をわくわくしてその場で作れるように設計されている」のだ。

実際、iPhoneを手に取り動画撮影をしようとすると、画角や明るさのバランスの良さにびっくりする。これはこれまで様々な業務用家庭用のビデオカメラを触ってきた経験からみても明らかにユーザー目線で設計されていることがわかる。高機能ではなく、ユーザーの体験を重視しているのだ。そして遊べて楽しめるアプリの豊富さ。これまでの一般ユーザー向けとは違い、突き詰めていけばアイディア次第でどこまでも面白いことができる。

映画はこれまでの芸術の延長上にあった。原作の文学性やドラマの演劇性に大きく頼っていた。だから複雑で難しいものと考えられてきた。これからの映画は「いまここで撮りたいものを撮る」ことから始まる。だから今までと同じような映画を撮る必要はない。撮ったものが映画になる。いまそのような時代の分岐点に来ている。

自分の眼や手の平の感覚の延長として使うことで、iPhoneは映画の可能性を広げてくれる。アプリもこれまでのカメラメーカーのお仕着せの映画っぽく見せるおもちゃではなく、開発者が映画らしく魅せたいという本格的な遊び以上のもので知恵を絞って楽しんで作られているものばかりだ。

スティーブ・ジョブズの引退と共に時代は次のフェーズに移った。iPhoneを使って、“Shoot-Edit-Upload”によって、新たなユーザー体験から未知のクリエーター体験へと、受身だったこれまでの自分を、作り手としてどこまでも拡張し展開できるのだ。

 Stay hungry , Stay foolish

Steve Jobs   1955-2011

iPhoneで誰でも映画ができる本

人生初著作が出ます。しかも映画本、キネマ旬報社からです!
ツイッター繋がりで、あれよあれよという間にこんなことが起こるなんて感激です。 編集の岸川真さんに感謝。
共著者の樫原辰郎さん(twitterIDは@tatsu_kashi)が実践的な部分を担当しています。
わたしは、内容を補足する「技術がつくった映画史」についてのコラムを書いています。
けっこう好き勝手書いています(笑)。
ものすごく画期的な本に仕上がっていると思います。
9/30発売です。書店で見かけたら手にとって下さい。映画かパソコンのコーナーにあると思います。

しばらくの間、プロモーションを兼ねてブログを更新していきます。
次回は、「なぜiPhoneで映画ができるのか?」です。

●内容紹介
iPhoneとiPad、そしてこの本があれば、映画監督になれる!
高性能のカメラが搭載されたiPhone4。撮影・編集・ダビングに伴う標準装備が整い、便利で楽しい多種多様なアプリを活用することができるiPad2。そしてこのガイドブックがあればあなたも自分で作りたい映画を思い通りに作り、世界に発信することが出来る。映像に関連するiPhone4とiPad2の便利な機能や最新アプリを紹介し、撮影から編集、そして配信までの手順を現役の映画監督とインターネット・メディアのプロが伝授する、これまでなかった映画制作マニュアル。

●主な内容(目次より)

prologue What’s iPhone
 1 デジタル映像革命宣言世界が変わる!映画が変わる!
 2 誰もが映像で語る時代が来た! 今、手の中で映画が誕生する。
 3 iPhone4を持って街に出よう! 僕らは変革の真っ最中にいる。
 4 ワールドプレミアはYouTubeで。僕らは世界と繋がっている。

Chapter 1 Let’s touch
 1 フロントカメラを使いこなす。新たなるカットバックの誕生か?
 2 Movie日記事始め。出かける時にはiPhoneを。
 3 プレゼンはiPhone4とiPad2で!その場で動画を撮って見せろ!
 4  iPhoneMovieで日記を紡ぐ。日常から作品への飛翔。
 5  iPhoneは日常を変えるツール。暮らしの中でのカメラ機能。
 6  黒船襲来!! iPad2! カメラを備えたiPad!
 7 iPhone4+iPad2=∞ 世界最小のモバイルスタジオ誕生!

Chapter 2 Application & Software
 1 iMovieチュートリアル あのソフトがアプリになった!
 2 デフォルトでオーバーラップをかけてくれる親切機能。気に入らなければ、タップで切り替えすぐ変更。
 3 iMovie最大のライバル? 手軽にサックリ繋ぐならSplice。
 4 動画編集アプリの大本命! この機能でこの値段は驚異的。
 5 アプリで遊ぶ、映像エフェクト! iPhoneムービーならではの特殊効果。
 6 サントラも自分で作る?! 素晴らしき音楽系アプリの世界

Chapter 3 How to shoot
 1 というわけで、実践編! 実際にiPhoneで撮ってみた。
 2 iPhone以外、何もいらない。押さえておきたい基本の映像テク。
 3 あえて、a機材を使う!! iPhoneでの撮影を強化するためのツール。
 4 カメラワークの限界に挑む! iPhoneでできる事、できない事。
 5 アングルとポジションのすべて
 6 カメラの位置は、演出意図ありき。ドラマがカメラの位置を決める。
 7 極端な画が欲しいなら、カメラマンは自由自在にポジションを選ぼう!
 8 サイズは被写体との距離感を物語る。引く時も寄る時も大胆にいこう!
 9 もっと高く! もっと低く! 欲しい画を求めて、ベストの位置を探せ!
 10 カメラを自由自在に動かす! パンニングは腰で舞わせ!
 11 小津のクロスカッティング! 向かい合った人物の会話を撮るには?
 12 イマジナリーラインをおさえる! 視線が生む、映画のリアリティ。
 13 移動撮影キタ? 低予算でカメラを動かす方法。

Chapter 4 Let’s making movie
 1 シナリオとプロットの違いって? アイデアメモと箱書きで、企画を捉える。
 2 で、短編のためのシナリオ講座。サクッと書いてサクッと撮ろう。
 3 基本は押さえたから、構成について考えてみよう。
 4 毎日がロケハンだ! iPhoneだけは忘れずに
 5 スケジュールを立てよう。
 6 たった一人でも、映画は撮れる! でも、一人より二人、二人より…
 7 撮影、監督、録音、照明に助監督。全部、一人でやれないものか?
 8 というわけで、劇映画でも撮るか!! いきなりハリウッドに挑戦したりして

Chapter 5 You can be director
 1 秘伝!人を動かす演出術。アマチュアの俳優を効率よく撮る!
 2 カット割の前にリハーサル。絵コンテは、丸描いてちょん!
 3 撮りながら、考える! 現場で役立つ絵コンテ術。
 4 アクションはこう撮れ! 活劇演出テクニック。
 5 ホラー撮るなら血のりは自作? お鍋で血みどろクッキング
 6 映画監督最大の敵、それは「撮りこぼし」

Chapter 6 How to edit
 1 クランクアップしたら編集! その時、君は。
 2 編集で、一番怖いのがコレだ! 撮ったはいいけど繋がらないよ!
 3 アクション繋ぎって何なのさ? フレームインって、そんなに重要?!
 4 タイトルやクレジットを作ろう。作品の仕上げ方。
 5 音楽と効果、音をつけたら完成! サントラも自分で作る?
 6 一番簡単な、音痴でも作曲できるGarageBandの使い方。

Chapter 7 Show the picture
 1 とにかく、完成したので、YouTubeにアップしてみた!
 2 iPhoneMovieで映画史が変わる。歴史の生証人は、君自身だ。
 3 そろそろ大詰め! 動画変換についての知識。
 4 旅先で映画祭を開く?! モバイルMovieの行方は?

お勧めサイレント映画レビュー
用語・映画作品索引
あとがき

●著者プロフィール
樫原辰郎(かしはら・たつろう)
 1964年、大阪出身。1998年より脚本家をはじめ、2000年より、脚本家と並行して映画監督を行う。2002年の「美女濡れ酒場」でピンク大賞で7冠を達成。2005年の作品「The 呪いのゲーム」はPS2ゲームソフトと映画の融合を試みた意欲作。最新作は元AKB48のリーダー・折井あゆみ主演「舞姫~ディーヴァ」(2011)。

角田亮(つのだ・りょう)
 1963年、川崎市出身。立教大学文学部心理学科卒。高校生時代から8ミリ映画の自主制作をする。テレビ番組制作会社でディレクター、プロデューサー。現在はインターネット・メディアの企画・制作に携わる。