■高画質版
[vimeo 1944612]
(7分18秒)
朝4時半に起床。荷造りをして、弁当をザックに詰めて宿を出る。暖かな風が吹いている。海風だろうか。潮の香りがまったく感じられないので島ということをつい忘れてしまう。ふと見上げると、満天の星が大きく輝いていて、まるで降ってくるように近い。
5時23分、定刻どおりバスが来る。だれも乗っていない。島を周回する道路から左折して、山への登り道に入る。バスが大きな音立ててギアを落として進んで行くうちに、夜が明ける。眼下には、安房の町と港が見えてくる。辺りの山々にも陽があたると、かなり奥深い山地まで行くことががわかってくる。バスが通るのには細く曲がった山道が続く。しかし運転手さんは慣れているので、またくスピードを落とす様子がない。時々木の枝が車窓に当たり音を立てる。高度が上がるにつれて車内温度が下がってくる。あわててTシャツに上にレインウェアを羽織る。
6時半前に、荒川登山口に到着する(標高600m)。すでに登山客で賑わっている。数人のグループはガイドに引率されているようで、レクチャーを受けていた。結局バスには20人くらいの人が乗っており、帰りまでほぼおなじようなペースで歩くことになり、最後には奇妙な連帯感が生まれるようになった。
天気は上々、靴紐を結びなおして、朝食のおにぎりをひとつ頬張る。すぐ横を流れる渓流の水の量がかなり多く、近くの山々に水音が響き渡っている。
トロッコの終点の引込み線になっているここから出発する。線路の枕木をひとつずつ踏みながら進む。すぐに橋があり、渓流を渡る。下が見えるので怖いなぁ。そして短いトンネルを抜けると、右手が開けてくる。雄大な景色に見惚れる。ああやっと来たんだなと、本土とはちがう植生を見ながら、絶えず岩壁から流れ落ちる清水を感じながら思う。アジアの異国の高地を歩いているような気分になる。
やがて太陽の光が、山々の間から奥まで差し込んで来て、森の緑の濃さが引き立ってくる。線路の傾斜はきつくないので、2.6キロ、50分というコースタイムどおりに進む。このあたりまでは屋久杉の巨木はほとんどみえない。何ヶ所かある短い橋は手すりがないので、滑ったら危ないな。雨の日だったら泣いているよ。
小杉谷橋という100mくらいの立派な橋を渡る。下に見える渓流には直径数メートルはある大きな石がごろごろしていて、遠近感が狂う。こんな山奥に開けた川が流れているのに驚く。橋を渡ったところが、分校跡地だ。いまは校庭の敷地があるだけで、なにも残っていない。休憩所があるが、スルー。水は飲めないみたい。しばらく行くと、サイレンみたいのが一瞬聞こえた。あれと思っていると、トロッコが通過する。おお、現役だと感激する。
このあたりから、伐採された屋久杉の大きな株があちらこちらに見られるようになる。あるものはさらにそこから幹と枝を伸ばし、苔が密着している。そのカタチが不思議で見ていて飽きない。30分ほどで楠川分かれという分岐点。ここから白谷雲水峡へと、2時間30分ほどで行けると書いてある。
ようやく森も明るくなってきて、鳥の鳴き声が時おり聞こえるようになって来た。三代杉という杉の木。中が空洞になって、その上に新しい杉が生えて、いま生えているのが三代目ということから名づけられたということだ。さらに進むと、ようやく坂道になってきて、ショートカットの短い急な登りがある。そこを過ぎたら、キュウーキューという鳴き声がする。森の中をよく見ると、子どものヤクシカだった。しばらくうろうろしてから、意を決したように線路を越えて下の方の森へ去って行く。そこには体の大きな母シカがいた。
大株歩道に着いたのが、9時20分ごろ。トロッコ道もここまで。トイレと水場が完備されている。ここからは、本格的な登山道になる。まず急な木の階段を行く。岩と木の根の間の段差を歩くことになる。
30分でウィルソン株にたどり着く。思わずデカッと言ってしまうほど大きな切り株。中は空洞。小さな祠が祭られている。見上げると周りの杉の木がよく見える。なんか水の底から森を見ているみたいだ。
ここからは木道が整備されていて、歩きやすい。危険な箇所も無い。ただ登るだけじゃなく、いくつもの沢を渡るのでそのたび下るのでちょっとリズムが狂うが、沢の水が岩を滑るように流れているので、画になり、その中を歩くのも乙な感じです。水がきれいで水場もたくさんあります。進むにつれて自然の巨木が目立ってきます。60分後、大王杉に到着。これまた迫力があります。そのすぐ先にある夫婦杉も不思議な姿です。
やがて前方が騒がしくなってきて、立派なウッドデッキ風の階段が現れる。そこを昇ると、縄文杉が現れる。圧倒的な姿に驚く。こんなの見たことがないです。ぽかんとする。最初に見つけた人はびっくりしただろうな。ああやっと辿り着いたねという感慨ひとしお…。まさにこの道は縄文杉に会うための巡礼路だと思った。この場所も海から上がって来て、この島のほぼ中央(1280m)に位置しているからね。ご神木なのかもしれない。
さらに10分ほど歩いて、高塚小屋のあたりまで行って11時30分過ぎに弁当を広げる。ここで泊まって、屋久島の最高峰宮之浦岳(1936m)を踏破するのもいいかもしれない。
帰りはバスの時間までにたっぷりと余裕があったので、何度も休憩しながらゆっくりゆっくり歩く。コーヒーを沸かしたかったな。ガスカートリッジは手に入るようだけど、買いに出掛けるヒマが無かったよ。でも台風のおかげか、今日は人が少ないとガイドの人たちはみんな言っていた。夕方4時過ぎに荒川登山口に到着する。5時前のバスで下る。太陽が段々沈んで暗くなり山が見えなくなっていく。一日が終わったという実感をものすごく感じる。
この森では、いままでもそうだったし、これからも変わらず、こういう風に時間が過ぎていくのだろうなとふと思った。


