脱貧困の経済学

ここ数日の経済をめぐる動きはおもしろい。いまの最大の問題は、円高とデフレと株価下落だと云う。日銀と政府の牽制の仕合の裏ではいったい何が起きているのか。そして、この状況がわたしたちの生活や未来にどのような影響を及ぼすのか。
本書は、エコノミスト・飯田泰之に作家・雨宮処凛が、今の日本が陥っている経済状況からどうしたら脱出できるか、そしてワーキングプア問題(「プレカリアート」というらし い)を無くすことができるか訊ねるカタチで構成されている。ニュースで断片的に入ってくる情報が分かりやすく理解できて、これらの問題については、格好の 入門書では無いでしょうか。
もちろん経済学については諸論があって、どれが正解とは云えない事は分かっているつもりです。しかしここに書かれたものは、国家規模の経済政策がいかに影響を及ぼしたか、改めて暗澹たる気持ちになる。
目についたものをいくつか紹介すると…

1999年以来、ほぼ毎年減税が行われているが、それで得をするのは、年収1000万円以上の人だけ。逆に云うとそれ以下では減税の恩恵は無い。税収が不足するのは、ブッシュ政権と同じく「お金持ちを減税したから」というのが大きな理由。

円高の恐ろしさ、月給20万円の労働者の賃金はドル換算で約1600ドル。しかし、1ドルが90円になると2200ドルです。こうなると海外に出た方が安い。
製造業では、1ドル105円より安くなると、日本人のほうがいい。それ以上円が高いと「質の良さ」だけでは相殺されない差額になってしまう。1ドル110円台が常になれば、日本企業は中国から総撤退するという。

年金・医療保険・介護保険の支払いと受給の差額は、1960年生まれを境にして、それ以降の世代は、1歳ごとに約200万円ずつ損をしていく。75年生まれだと、120万円の払い損。

本書での大きな提案は、まず目標率を決めたインフレ(2%程度)を起こすこと(レフレ政策という)。そのために手っ取り早いのは、カネをばらまくこと。定額給付金も 100倍にして、毎年絶対にもらえる所得ベーシック・インカムを年収120万円にする。「その財源は?」と聞かれるが、紙幣を刷ればいい。アメリカはそう やっているという。
インフレ率を調整すれば、消費税を上げなくても、その分の税収はカバーできる。

ちょっと調べると、世界中で、インフレ調整をする政策がすでに行われているのですね。90年代の日本の経済政策の失敗とそこからの脱出については、今年のノーベル経済学賞のポール・クルーグマン教授がすでにインフレ調整を提案しています。
これからなにが起きるか、経済ニュースから目が離せません。

飯田泰之氏のブログ

クルーグマン教授の文

日本映画の国際ビジネス

現在、邦高洋低の興行状態の日本映画界だが、韓流ブームのあと『レッドクリフ』がなりふり構わず宣伝を打ちまくって資金回収に走ったりと、日常的に合作映画の話題が出てくる。いま一体映画界で何が起こっているのかを関係者へのインタビューで明らかにしていく。

映画製作で、重要なパートを占める資金作り。日本では製作委員会方式が通常だが、韓国ではファンド方式だという。またアート系の場合、資金の出資率により、映画の国籍が変わり、公開の市場が保障されるために助成金の確保が大切だという。『殯の森』の場合、フランスのセルロイド・ドリームスという会社が、1000から1500万程度、全体の10%ほどをフランスからの助成金を得たことで、フランス国籍が取れたという。そうなるとヨーロッパのテレビ局が映画に対して支払う放送権料がちがうという。共同製作による助成金の場合、スタッフ、キャストの参加によるポイントがヨーロッパ的であるかどうかで決定される。ヨーロッパはビデオ市場が小さいから、この助成金があるかないかで買値が一桁ちがう。フランスでは、CNC(フランス国立映画センター)やEurimages(ユーリマージュ、EU加盟国共通の助成システム)が有名。だから、欧米の評論家に「発見」してもらうことが重要だ…という態度は正直どうなのかと個人的には思うが。
韓国では、kofic(映画振興委員会)がEUと同じような助成を行っている。

日本では、助成金は30億円程度であり、そのうち製作への助成はトータルで17億円だという。

10年前に(1つの作品に)3000万円もらえていた助成金もいま2000万円になってしまい、1億円の製作費で5000万円もらえていたビデオ会社からの出資もいまはいいところ2000万円でしょう。(中略)現在の状況では、資金回収を興行だけに頼らざるを得ない。それで100館くらいの拡大公開にもってゆき、広告宣伝を大々的に打って一発勝負にかけるしかない。すると、1億円の予算に、宣伝費とプリント代で最低6000万円は使うことになり、(中略)これはシネマコンプレックスという背景があったからできたようなものですが、もうアテにはできなくなっている。興行成績の上位20本だけで、全興行の85%を占めているような状況が長続きするはずが無い。(後略)

堀越謙三(ユーロスペース)

またハリウッドメジャーの進出による戦略として、日本の観客のために日本語で作る日本市場をターゲットにした「ローカル・プロダクション」。そしてアジア全体を視野に入れてそれぞれの国と共同製作をする「コ・プロダクション」方式がフォックスやワーナーで進められていることがわかる。

他にも、香港、シンガポールの国際金融市場での資金調達法、日本のコンテンツの海外輸出について。撮影監督阪本善尚のスタッフの目線からの共同製作についての意見がおもしろい。

日本ヘラルドエースで多くの海外との合作の仕事をしてきた、タラ・コンテンツのプロデューサー、井関氏の言葉がいまと現状と、これから起こることについて的確に語っているのではないかと思われる。

--中国や韓国で、映画制作を志している人たちは熱いじゃないですか。日本の若い映画人もそうしたところに行った方が、国内にいるより楽しいんじゃないですか?

井関 刺激になるだろうね。韓国なんか若いし、みんなやる気はあるし。実際、骨太のいい映画を沢山作っている。「オアシス」とか「殺人の追憶」なんて、日本じゃ通らないような企画を立派な作品に仕上げている。韓国は今、ファンドが危機的状況だけど、あれだけの作品のクオリティを維持できれば、いつかはまた復活すると思う。でも中国映画は、ハリウッド的大作主義に走りすぎなのが非常に危険だよね。

僕は日本の映画界も変わると思うんだけど、テレビ局映画は間違いなくダメになる。なぜかというと、テレビ各局は今、CM以外の事業外収入に力を入れ始めた。当面で一番簡単なのが映画の収入なんだよ。これまで年間3本だったのに年間12本にして毎月公開していたら分散されて、これまでのような大量投下のプロモーションはできない。そうなれば外れる確率は高くなる。成功率が悪くなったら、映画会社もそう簡単にテレビ局と組まなくなるよ。だからテレビ局の映画は絶対にダメになる。そのことで映画界全体がダメになるということも考えられる。だから本当に今、危ないと思う。僕らにしてみればごく普通のものが、今の観客にとってはみんな難しく感じられるようだ。

それから、日本で一般的になっている「製作委員会システム」。集まって合意というスタイルがものすごく国際化を阻害している。映画を作っていると、その場で決断しなきゃならないことが毎日起こる。それを一週間も伸ばされてたら、映画は作れない。僕に任せてくれれば、いい映画を作るとは言わないけど、少なくともそこで、失敗してもやらせるという度量がないとダメ。だから無難な映画しかできないんだ。例えば、バジェットオーバーしたらどうするかって話になるとする。各国はみんなオーナーが来ているから即断できるけど、残念ながら日本は製作委員会を構成している会社の社員が出てくるから、「持ち帰って検討します」としか言えない。そう言った瞬間に、信用を失うことがわかってない。だから、サラリーマンであっても、これなら自分は会社を口説けるという判断で、その場で決断しない限り、相手の信用を得られないんだ。

外国でもLLPとか政府ファンドとかあるけど、それはビジネスとしてお金を出すだけ。しかし、日本の製作委員会は、お金を出すことによって自分たちが映画製作をしていると思っている。発想が全然違うんだ。全く国際ルールにならない。外国とやるときは、プロデューサーが最終決定権を持っていなかったら、誰にも信用されないよ。また日本の場合は、最終決定権を持っている人が話し合いの場所に行っても、後のことは部下たちに任せてしまうからほとんど話が先へ進まない。それが日本の一番ダメなところだね。中国も韓国もアメリカも、最終決定権を持っている人が、全部最後までやる。

これからの若い映画人は国内にいるよりも、中国や韓国の映画製作を志している連中と触れ合うことで、いい刺激になるだろうから、どんどん外に出た方がいいと思うよ。

井関惺

■世界中のロケーション情報を集めた雑誌「ロケーションガイド」

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