女の足指と電話機 回想の女優たち


虫明亜呂無氏の映画、舞台などのエンターテインメント評集。またはエッセー集。

虫明氏の映画評は、紹介されている映画そのものより遥かに面白い。彼自身が寺山修司や篠田正浩、石岡瑛子と交友関係があり、ちらりとそのあたりの話も出て来て面白いんだけど、まぁはっきり言ってそれほど、映画を神聖化したり、入れ込んだりしていないのではないかと思える。
そんな映画史的な優等生の棲み分けなんかに目配せすることには全く興味を持たず、ひたすら映画から溢れ出る官能を、女優の官能を、観客や読者の快楽に変えていく文章には参ってしまう。
歴史、芸術に関するペダンチックな知識の部分もあるのだけど、それをこの映画が優れている、と語る正面切っての論拠にしない品の良さがある。一方で、その時代に表面化する部分をクローズアップして書かれていたりするので、(「飛ぶのが怖い」、ジル・クレイバーグ、パルコのCMに出るドミニク・サンダ…)政治の季節も70年代後半の女性映画の時代も通り過ぎた今では、古びる要素を含んでいる部分も多々ある。

虫明氏の感覚的な文章は、審美的な観察眼と浪漫チシズムの視線(あるいは妄想、妄執)によって成り立っている。その独特な距離感(男性から見た女性への視線)が、生々しくならずどこまでも格調高く透明に見えながら、また生理的に下世話だったりする。しかし文章は一向にそのように見えない。熱さとひんやりとした冷たさが交わる酔わせ加減が絶妙だ。それをスポーツ新聞に書いていたりするのだからさらに唸ってしまう。

生きては捕まらない

フランスの犯罪王ジャック・メスリーヌの自伝です。彼自身が書いた内容はまさに、プロの犯罪者であり、冒険とロマン、女と裏切りに満ちあふれています。ある意味、ルパン三世の実写版です。文体もまるで小説かと思わせるぐらいに巧みです。
そもそも、この本のハードカヴァー「生きては捕まらない」を読んだのが22年前かな、ようやく文庫本になりましたね。

当時、この本を読んで映画化したいと思った男がいて、映画化の権利を持っていたジャン=ポール・ベルモンドを口説くのに、「もう一度オレと組まな いか?『気狂いピエロ』のような作品にするから」、と持ちかけたところ、ベルモンドに「あんたに任せると、勝手に好きに変えられて、最後には数式みたいな 映画になってしまうからダメだ」と言われたとか…。
まっ、映画史の真実とはそういうものです。

今回映画化されて、その公開に併せての刊行みたいですね。
■映画『ジャック・メスリーヌ』のサイト
http://www.vincent-cassel-movie.com/